2013年ヨーロッパリウマチ学会(EULAR 2013)

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欧州リウマチ学会(EULAR)が6/11-6/15にマドリッドで開催され参加してきました。

いろいろと新しい報告はありましたが、特に注目されたのは、レコメンデーション(治療に関する提言)が3年ぶりに改訂されたことで、ウィーン大学のスモーレン先生が発表。最終日のほぼ最後の発表にも関わらず、多くの人が集まっていました。まだ草稿の状態で、いくらか手直しされ後日、学会誌に掲載されることになるようです。

また6月30日に第15回石川リウマチ薬物治療研究会が開催され、長崎大学第一内科教授の川上先生に御講演いただきましたが、その中でも、新しいEULARのレコメンデーションにつき、詳しく述べられていました。日本を含め、世界中のリウマチ医の治療方針に大きな影響を与えるであろう、この変更の概要について、本日は御報告させていただきます。

 

まず、用語のことになりますが、リウマチの基本的治療薬であるDMARD(疾患修飾性抗リウマチ剤)を分類して新たに定義しています。

sDMARD(synthetic DMARD)

合成DMARDのことで、これはさらに二種類に分けられ

①    csDMARD (conventional synthetic DMARD)

これまで使用されてきたMTX(リウマトレックス)、サラゾスルファピリジンなど従来型の合成DMARDsのことです。

②    tsDMARD ( targeted synthetic DMARD)

分子標的型合成DMARDsで、今回の報告では特にトファシチニブ(ゼルヤンツ)を意識しています。

さらに、

③    bDMARD (biological DMARD)

生物学的DMARDで、インフリキシマブ(レミケード)、エタネルセプト(エンブレル)など、先発品の生物学的製剤のことです。

④    bsDMARD (biosimilar DMARD)

生物学的製剤の後発品のことです。

 

以下はレコメンデーションの概要です。(逐語訳ではありません)

まず包括的原則として

A. RAの治療は最善のケアを目的として、リウマチ医と患者との共同の決定に基づかなければならない。

 

B. RA患者のケアを第一に行う専門家はリウマチ医である。

 

C. RAを治療するリウマチ医は、RAが個人、社会、医療のコストが高額であることを全て考慮して、管理すべきである。

(2010年と比較してAとBが入れ替わり、Cの文面が多少変わったが著変なし。)

 

次に14の提言(推奨)が続きます。

 

  1. RAの診断がつき次第DMARDによる治療を開始する。
  2. 治療目標は寛解か低疾患活動性であるべきである。(ACR/EULARの指標、DAS, DAI, Booleanを用いて評価する。)
  3. RAが活動的であれば、1-3ヵ月ごとに評価する。最大3ヵ月までに改善がないか、最大6か月までに治療目標に達しない場合は、治療の変更をすべきである。(2010年版レコメンデーションで2にまとめられていたところが2と3に分けられた。治療目標に達しない場合、1-3ヵ月後ごとの治療の調整とあったが、最大6ヵ月に延ばされた。)
  4. MTX(リウマトレックス)は最初の治療薬の一つであるべきである。
  5. MTX(リウマトレックス)が禁忌か、忍容性がない場合サラゾスルファピリジンかレフルノミドを考慮する。(2010年と較べ注射金製剤が削除された。理由は駄目だということではなく実際市場で使われなくなってきたということのようです。)
  6. csDMARD未使用の患者では、ステロイド剤の追加の有無に関わらず、csDMARDの単剤または併用療法を行なうべきである (2010年版では併用療法よりまず単剤でのsDMARDを勧めており、2013年版ではより併用を支持する変化となっている。)
  7. 初期治療で(少なくとも1剤以上のcsDMARDと併用して)、ステロイドを少量(プレドニゾロンで10mg/日以下を目安)最長6か月を目安に使用することは治療戦略の一つだが、臨床的に可能な限り迅速に減量すべきである。(2010年版では、比較的高容量のステロイドまでを可として、使用量や期間の具体的な数値が置かれていなかった。)
  8. 最初のDMARDで治療目標に達しない場合、別のcsDMARDへの変更を考慮し、予後不良因子がある場合はbDMARDの追加を考慮すべきである。
  9. MTXや他のcsDMRAD(併用療法も含む)に効果が不十分な場合、(ステロイド剤の使用の有無にかかわらず)、bDMARDをMTXに併用して始めるべきである。ここでbDMARDはTNF阻害薬、アバタセプト(オレンシア)、トシリズマブ(アクテムラ)である。一定の条件下ではリツキシマブ(リツキサン)も候補となる。
  10. 最初のbDMARDで目的を達成しない場合、別のbDMARDに変更すべき。最初のTNF阻害剤で目標に達しない場合、別のTNF阻害薬、アバタセプト(オレンシア)、トシリズマブ(アクテムラ)もしくはリツキシマブ(リツキサン)を使用できる。
  11. トファシチニブ(ゼルヤンツ)は、bDMARDを1剤、望ましくは2剤使用して目標に達しない場合考慮する。
  12. .寛解状態が持続していれば、ステロイドを減量した後に、特にcsDMARDを併用している場合、bDMARDの減量を考慮できる。
  13.  長期寛解状態の場合、患者との合意の上、csDMARDを注意深く減量することを考慮し得る。
  14. 治療を調整する際は、疾患活動性以外の因子である、構造的損傷(関節破壊)の進行、合併症と安全性なども考慮すべきである。

 

今回のレコメンデーションに対するまとめと感想です。

・T to T  (Treat to Target: 定期的に疾患活動性を評価して、治療目標に向かって治療薬の変更や調整を行う手法)に従えば、最初からbDMARDを使用せずとも劣らない効果が得られる点や、csDMARDの併用療法の有効性を強調されている点など、経済的な負担軽減の意識も強いようです。(一方では、早期のbDMARDの導入と減量という治療戦略の可能性にも言及していますが・・) 今のところ、高活動性で予後不良因子を持つ早期RAには最初から抗TNF剤を考慮するACR(米国リウマチ学会)の2012年のレコメンデーションとは一線を画しています。

・トシリズマブ(アクテムラ)とアバタセプト(オレンシア)が、抗TNF剤と同列の、bDMARDの第一選択肢の扱いとなりました。特にトシリズマブにおいては、ACR2012のレコメンデーションでは早期以後のRA対しても第一選択肢ではなかったことを考えると、評価を上げて、トシリズマブ、アバタセプト、抗TNF剤が同格の扱いとなっています。また原則bDMARDはMTXを併用すべきだが、敢えて単剤で使用するのであればトシリズマブが望ましいとされました。

・初期治療におけるステロイドの使用について、期間と量の目安に言及されたことで、前回より具体的となりました。実際、極めて激しい全身の関節炎の場合、MTX投与前の結核やウィルス性肝炎の検査結果を待っていられないので、私も時に使用しますが、やはり長期連用の副作用は強く、できるだけ少量で短期としたいところです。

・トファシチニブ(ゼルヤンツ)について、有用性は確認されているが、帯状疱疹のリスクは高いとされました。bDMARDを少なくとも1剤(2剤がより望ましい)使用しても上手く行かない場合トファシチニブを考慮するとされました。ただしレコメンデーションは2013/4/9のミーティングで最終的な草稿ができており、その後の2013/4/25に欧州医薬品庁より承認されなかったことが判明しています。今後の正式なレコメンデーションではより消極的な選択肢となる可能性があるかもしれません。なお、スモーレン先生の発表の前に薬剤の安全性に関してラミロ先生より発表があり、そこではトファシチニブによる悪性腫瘍の増加はないとされていました。しかしJCR(日本リウマチ学会)が使用ガイドライン上に記載しているように、当面慎重な姿勢が望ましいと思われます。

・今回はbsDMARDについても言及がありました。詳述はなく、特にレミケードの後発品に関して、レミケードで改善がない場合に使用すべきではない、という当然のコメントがありました。先述のラミロ先生の発表では、レミケード後発品のCT-P13では、やや結核の発症率が高いとの指摘もありました。ところで、学会後、レミケードの後発品の2剤が2013/6/28にヨーロッパで認可されました。米国や日本ではまだ認可されていません。高額なバイオ製剤が安価となるのは、患者さんにとって大きな福音で大変喜ばしいことですが、bDMARDは複雑な工程を経て製造される薬剤であり、後発品を扱う製薬会社が品質の維持、管理が適切にできるのかも含め、今後慎重に判断する必要があるでしょう。

 

RAの分類基準(診断基準に準ずるもの)や、治療目標である寛解基準に関しては、ACRとEULARが共同で出し、現在ほぼ世界標準となっていると思われます。しかし、治療戦略の提言、推奨に関しては、統一されてはいません。以前ACR2012のレコメンデーションが出された直後に、直接スモーレン先生にEULAR2010のレコメンデーションとして比較しての感想を伺いましたが、EULARのものがより世界標準で、優れていることを力説され、共感できるところも多かったことを思い出します。そして今回待望のEULARレコメンデーションの新バージョンが出された訳ですが、tsDMARDやbsDMARDなど新たな治療展開も生まれ、今後も頻回に改訂されることでしょう。今回のレコメンデーションの成果を取り入れ、また日本独自の安全性の問題を十分勘案して、日々の診療にあたりたいと思います。

患者様向けにレポートしたつもりですが、内容がどうしても固く、難しくなってしまったと思います。リウマチスクールや、年末に予定する療養懇談会では、よりリラックスした雰囲気で、図を使って分かりやすく話したいと思っています。宜しくお願い致します。

hidamari

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