2014年米国リウマチ学会(ACR 2014)参加報告

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御報告が遅れましたが、昨年11月下旬にボストンで開催された米国リウマチ学会に参加して来ました。関節リウマチ(RA)の分野でも興味深い発表は多かったのですが、全体として、病態の解明や新薬の創薬という点では、乾癬性関節炎に関する発表がより盛り上がっているようでした。2013年のウステキヌマブ(抗IL12/23製剤)、2014年のアプレミラスト(PDE4阻害剤)、さらに今後認可される見通しのセクキヌマブ(抗IL-17A抗体)、イクセキツマブ(抗IL-17A抗体)、ブロダルマブ(抗IL-17受容体抗体)などの薬剤に関する報告が、シンポジウムを含め多く、RAに対する生物学的製剤が次々と市場に出た時の熱気に似ているかもしれません。日本では欧米に比べると罹患率は低く、リウマチ医の注目度はやや低いかもしれませんが、重症例では深刻な病気であり、皮膚科医とリウマチ科医の密接な連携も今後の課題かと思われます。

RA関係では、RA診療ガイドラインの新たな改訂(草稿版。2015年春に正式発表予定)が話題となっていました。最近では2013年ヨーロッパリウマチ学会(EUALR2013)にてレコメンデーション(推奨治療)の改訂版が報告され、多くのリウマチ医の指針となりました。本邦では10年ぶりに日本リウマチ学会(JCR)より、RA診療ガイドライン2014が出されましたが、薬物治療に関して、個々の薬物に関しては歴史的背景もあり若干の違いはあるものの、概ねEULARのレコメンデーションを継承していました。そこに今回米国が最新版のRA治療指針を提示したわけです。すでにそのダイジェストは公表されているようですが、ここでは欧州、日本、米国の治療指針を比較してみます。

治療指針 EULAR2013(欧州) JCR2014(日本) ACR2015(米国)
RA診断後最初に用いる薬 MTX単剤もしくは他のcsDMARDと併用 MTX単剤 MTX単剤

他のDMARDの単剤もあり得る

治療薬の選択に

予後不良因子を考慮に入れるか

する する しない
ステロイドの内服は 必要最少量を

最短期間

最初からMTX

と併用可

必要最少量を

最短期間

最初からMTXと併用可

必要最少量を

最短期間

MTX効果不十分の場合に考慮

ステロイドの関節注射 言及せず 言及せず
トファシチニブ

(ゼルヤンツ)

使用のタイミング

1-2剤の生物学的製剤で不成功の場合 生物学的製剤が奏功しない場合 非早期RAでは、

生物学的製剤と同列の扱い

 

バイオシミラー

(生物学的製剤の後発品)の是非

 

使用可

(推奨あり)

 

使用可

(推奨なし)

 

今後の課題

 

薬剤の減量、中止について 寛解状態が持続していれば、ステロイドを減量した後に、特にcsDMARDを併用している場合、bDMARDの減量を考慮できる。

長期寛解状態の場合、患者との合意の上、csDMARDを注意深く減量することを考慮し得る。

EULAR2013と同じ 非早期RAかつMTX投与下で

寛解状態ならば、DMARD, TNF阻害剤、

非TNF系生物学的製剤、トファシチニブなどを減量できる。

ただし全ての治療を止めてはいけない

(少なくとも1剤は残す)

ACR2015の治療指針は、EULAR2013, JCR2014と比較し余り目新しさを感じなかったというのが実感ですが、トファシチニブを非早期RA(RA発症6ヶ月以上経過)では、生物学的製剤と同列に並べたことが大きいでしょう。バイオナイーブ(生物学的製剤未経験)の患者さんにも使用可ということになります。これに関しては、発表当日のフロアーからも色々と意見が出て、発症早期でも有効であるエビデンスがあるのだから早期から生物学的製剤と同列に扱うべきとの積極派、同列扱いではエビデンスのよりしっかりした注射製剤の生物学的製剤より投与方法が安易な内服のトファシチニブに流れてしまうという慎重派などです。因みに、この発表があった日の夜にEULARのジョセフ・スモーレン先生に直接この点をお伺いしましたが、バイオナイーブの患者さんへのトファシチニブの使用は”can be”(あり得る)であるが、EULARではまだエビデンスの蓄積が十分でなかったので推奨はしなかったとのことで、レコメンデーションはあくまで一般的推奨であり、実際は個々の患者さんの実情に応じて決定すべき、という無難?なお答えでした。

 

一方で、合併症のあるRA患者さんの薬物療法に関しては、ACR2012のレコメンデーションと較べるとかなり、踏み込んだ印象です。その内いくつか挙げてみます。

例えば、癌関連では、メラノーマにはTNF阻害剤、非メラノーマ系皮膚癌には非TNF系生物学的製剤をより推奨。リンパ増殖性疾患には非TNF系生物学的製剤(日本で保険適応はないが特にリツキシマブ)をより推奨。また固形癌に関しては完治していれば、その既往歴に左右されず治療薬を選んで良く、癌発症5年以内は生物学的製剤を使用すべきでないなどの文言は外されています。B型肝炎、C型肝炎に関しては有効な抗ウィルス治療を受けていれば、DMARD、TNF阻害剤、非TNF系生物学的製剤、トファシチニブのどれでも使用可能とされました。また過去に重症感染症の既往のある患者さんに対しては、生物学的製剤の中ではアバタセプト(オレンシア)を推奨しました。勿論、合併症を有するRA患者さんの治療に関しては、日本人でのエビデンスが乏しいものあり、極めて慎重に対応すべきで、ACRの指針を丸呑みすべきでないのは当然ですが、日本のリウマチ医にとっては実臨床では一定の指針となるでしょう。

 

今回ACR2015の治療指針では、まだまだ?と言える点があります。

・まず用語が統一されておらず、JCRでは基本EULAR2013で新たに決めた、csDMARD(従来型合成DMARD), tsDMARD(標的型合成DMARD), bDMARD(生物学的DMARD), bsDMARD(バイオシミラーDMARD)を踏襲しているようですが、今回のACRの指針ではDMARDの分類は曖昧でした。

・DMARDの3剤併用や予後不良因子に関してACR2012の指針では言及されていたが、今回はないようで、これは注目されている分野でもあり、言及した方が良かったのでは・・と感じます。

・バイオシミラー(生物学的製剤の後発品)に関しては、すでに日欧ではすでに使用されているにも関わらず(日本では11月28日に薬価収載)、今後の検討課題とされています。米国では先発品の特許がまだ切れておらず止むを得ないかもしれませんが・・

・ステロイドの使用に関して今回は言及されましたが、必要最低限の量を最短期間と言いながら、アルゴリズム(治療の図式)上は、ステロイド投与が連発し、どれ位の量と期間なら容認しそのまま見るのか、またはステロイド減量のため治療をステップアップするのかなど不明。

・非早期RAで、DMARDs併用、TNF製剤、非TNF系生物学的製剤の優先順位、またそれぞれのカテゴリーの中の個別薬剤の優先順位が不明。上記三つのカテゴリーとトファシチニブの優先順位が不明。

 

挙げればきりがありませんが、次々と出る新しい治療指針を基本的知識としては持ちつつ、患者さんの個々の状況に応じていくつか適切な治療法を提案し、納得していただける治療を継続する原則には変わりなく、今後も治療の精度が少しでも上がるよう努力精進を続けて参ります。

上荒屋クリニック概要
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内科一般・リウマチ膠原病科
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