リウマチNOW!
6月8日より11日にかけ、ロンドンで欧州リウマチ学会(EULAR)2016が開催され、参加して来ました。ヨーロッパなどでテロリズムが頻発していることもあり、参加を控えられた先生方もおられるようですが、相変わらず、大変な賑わいでした。米国と違って、欧州での大会議場は市の中心地から離れている傾向があり、タクシー、電車や地下鉄が大変混み、中々大変でした。
今回関節リウマチの関連では3年ぶりに推奨治療方針が改訂されました。2013年版と最新版の2016年版(素案)との比較のスライドがEUALRのホームページにuploadされています。御参照下さい。
http://www.eular.org/myUploadData/files/EULAR%20RA%20Management%20recommendations%202016%20update%20June%202016-c_2.pdf
さて今回の主な改訂点ですが、
用語としてcsDMARD, boDMARD, bsDMARD, tsDMARDと4つに分かれ、新たに bio originator が生物学的製剤の先発品を示す用語として、biosimilarに対峙して定義されたようです。
序文の包括的原則が3つより4つに増えて、「治療の決定は、疾患活動性とともに、構造的傷害の進行・合併症・安全性など他の患者要因に基づいて行われる」の一文が新たな包括的原則Bとして追加されました。
新レコメンデーション6 “ステロイド投与は、csDMARD開始時、もしくは変更時に、種々の投与量や投与経路にて行うべきだが、臨床的に可能な限り短期的に減量すべきである。”
ここは委員の中でもかなり議論になったようです。今回 “少量”としなかったのは30mgなど中等量を用い、すみやかに減量した臨床試験の有用性などを考慮に入れたとのことです。ちなみに、先月27日金沢にて、慶応大学の竹内勤先生に御講演いただきましたが、レコメンデーション6については反対の一票を入れたが決まってしまい、どうもEUALRはglobalな方向を目指し、ACRは国内に重きを置く方向のようだとのことでした。
旧レコメンデーション6が削除されました。csDMARDについては、併用療法よりMTXのmonotherapyを推奨。これはMTXとステロイドの併用療法が、MTXと他のcsDMARDsとの併用療法に比較して、治療効果が劣っていない(安全性は劣るが)ことが根拠のようです。
旧レコメンデーション8の内容は、新レコメンデーションの7と8に分割。
最初のcsDMARDsで治療目標に達しなかった場合、予後不良因子がない場合は、2013年版と変わらず、他のcsDMRDsをに変更する。予後不良因子がある場合は、bDMARDsもしくはtsDMARDsの追加併用を推奨。ただし現行の慣習ではbDMARDsより始めるとしました。
これは2013年版の時と違いtsDMARDs(現行ではトファシチニブとバリシチニブ)の有効性と安全性のデータが集積されたためとしています。
新レコメンデーション9として、bDMARDs、tsDMARDsともMTXなどcsDMARDsを併用すべきとしました。csDMARDが併用できない時はtsDMARDsか、bDMARDsならトシリズマブにアドバンテージがあるとしています。
新レコメンデーション10はbDMARDやtsDMARDが上手く行かない時は、別の bDMARDやtsDMARDを使うべきとしました。また1剤目のTNF阻害剤が奏功しない場合は、2剤目のTNF阻害剤か、別の作用機序の薬剤を使って良いとしました。
新レコメンデーション11は、ステロイド減量後も持続的に寛解していれば、特にcsDMARDsが併用されている場合は、bDMARDsの減量は行い得るとしています。
新レコメンデーション12は、レコメンデーション11の後も持続する寛解を維持できていればcsDMARDsの減量も考慮し得るとしました。
旧レコメンデーション14は、新レコメンデーション序文の包括的原則Bに含まれており、削除となりました。
ACR2015レコメンデーションとの相違点:
ステロイド併用をより明確に推奨。
bDMARDはmonotherapyよりcsDMARDsとの併用を勧める。
罹病期間ではなく、DMARDsの使用経験にて治療方針を変更する。
予後不良因子の有無により治療方針を変更する。
スモーレン先生の発表後、フロアからの質問は3つあり、
寛解という用語は、画像的寛解と紛らわしいので、臨床的寛解とはっきり述べるべきではないかという質問に対して、ここでは全てACR/EULAR定義の臨床的寛解の意味で使われているという答えでした。
csDMARDsのtriple therapyについての質問に対して、最新の臨床試験でのTriple DMARDs+steroidとMTX+ steroidを比較しても、効果の優位性はなく、Tirple therapyの方が安全性に問題があったため、特に推奨を行わなかったとのことでした。
米国のrecommendation と比較して安全性への言及がないとの質問には、EULARではそれぞれ別のレコメンデーションで扱っていることや、包括的原則の中で安全性に配慮することに触れており、詳述していない、とのことでした。
リウマチ診療分野における関節エコーの重要性はますます高まって来ています。
関節リウマチにおいては、リアルタイムの滑膜炎の病勢をみることに特に有用で、予後予測にも有用と考えられています。最近では他のリウマチ性疾患の評価にも使われてきています。また、侵襲性がなく、検査費用も安いというメリットがあります。
2014年度の当院の取り組み
6月に、パリにて関節エコーのIntermediate courseを受講しました。
これは、EULAR(欧州リウマチ学会)に先駆けて3泊4日で行われた研修会で、合宿のような形で関節エコーに集中して勉強するものです。講師にはこの分野でトップの方たちが勢ぞろいしていました。
一緒に回ったグループの他の4人の先生は、国籍がスペイン、ベルギー、オランダ、サウジアラビアで、内3名は女医の方々で、バラエティに富み、それぞれの国の医療事情なども興味深く聞けました。
9月に、当院の2人の技師が、東京で開催された Academy of Imaging のワークショップに1泊2日にて参加しました。関節エコーの指導を行うのは日本を代表する方々で、大変勉強になり、刺激となったようでした。
御報告が遅れましたが、昨年11月下旬にボストンで開催された米国リウマチ学会に参加して来ました。関節リウマチ(RA)の分野でも興味深い発表は多かったのですが、全体として、病態の解明や新薬の創薬という点では、乾癬性関節炎に関する発表がより盛り上がっているようでした。2013年のウステキヌマブ(抗IL12/23製剤)、2014年のアプレミラスト(PDE4阻害剤)、さらに今後認可される見通しのセクキヌマブ(抗IL-17A抗体)、イクセキツマブ(抗IL-17A抗体)、ブロダルマブ(抗IL-17受容体抗体)などの薬剤に関する報告が、シンポジウムを含め多く、RAに対する生物学的製剤が次々と市場に出た時の熱気に似ているかもしれません。日本では欧米に比べると罹患率は低く、リウマチ医の注目度はやや低いかもしれませんが、重症例では深刻な病気であり、皮膚科医とリウマチ科医の密接な連携も今後の課題かと思われます。 詳細はこちら
11月24日(日)にリウマチ医療懇談会を小松市民センターにて開催して盛況の内に終えることができました。
今回は、自分の講演と、リウマチ医療寸劇、患者さんの体験談の三部構成となりました。
講演は、基礎編と最新編に分けて行いました。基礎編では、リウマチの診断、治療目的、寛解の定義、活動性評価、治療方針について具体例を出しながら解説しました。治療方針はEULAR (欧州リウマチ学会)2013のレコメンデーションを日本向けにアレンジしたものを提示しました。国内外の主要な学会、特に直近のACR(米国リウマチ学会)2013や学術誌からの最新の知見も所々に入れましたが、時間の関係もあり、ゼルヤンツとそれ以降の新しいJak阻害剤に関する話題などを中心としました。なお、以上の内容ですが、今年の流行語を紹介しながら解説するという新しい試みにチャレンジしました。結果的に今年の流行語大賞の4つは全て網羅していました。滑ったところもあるでしょうが、結構笑いも取れていたと自負しています。
(*´▽`*)
笑いと言えば、久々の寸劇は、笑いとともにためにもなったでしょうか?体験発表では患者さんの生活の背景が聞けて感慨深いものがありました。
御参加いただいた皆お疲れ様でした、そして本当に有難うございました。
2013年11月23日(土)に都ホテルで行われたFIT-RA総会とその後のリウマチセミナーに参加しました。
FIT-RAには、関節リウマチの診療を行っている北陸三県の医療機関(現在金沢大学、富山大学を含む17医療機関)が参加し、生物学的製剤のデータベースを集約しています。
そのデータをもとに、FIT-RA所属の医師が、国内外の学会での報告や、学術誌への投稿を行っています。多数の高名な医師も出席され、今後の運営方針などについて議論されました。
セミナーでは、特別講演に西本憲弘先生をお招きして、「トシリズマブのPersonalized Medicine」の演題名にて御講演いただきました。西本先生と言えば、トシリズマブ(アクテムラ)の開発者として国内外で著名でおられます。堂々した佇まいで、開発時のエピソードから最近の話題まで淀みなく話され、リウマチ治療に対する情熱が感じられた講演でした。
IL-6やMMP-3の測定にて、アクテムラによる寛解やドラッグフリーの維持が予測できる点は、患者負担の面からも大変喜ばしいトピックでした。また、皮下注のアクテムラが国内承認されたばかりでもあり、点滴静注との違いについての質疑応答が興味深いものでした。
EULAR (欧州リウマチ学会)2013のレコメンデーションでは、生物学的製剤を単剤で使う場合はアクテムラを推奨していますが、免疫寛容にて抗体の出来にくい点滴静注の方がより望ましいようです。皮下注射の場合は、投与量が少なめとなる場合が多いこともあり、メトトレキサート(リウマトレックス)との併用がより望ましいようです。私も質疑応答、及びその後の懇親会にて、Jak阻害剤とIL-6との関係など色々と質問させていただき、大変勉強となりました。この場を借りて深謝致します。
11月9日(土)に開催され参加しました。
メインは、今話題のリウマチの新薬JaK阻害薬について、日本では第一人者である産業医科大の山岡邦宏先生の特別講演でした。基礎医学的な内容も含め、大変興味深く聞かせていただきました。日本でもすでに認可されたJaK阻害薬のトファシチニブ(ゼルヤンツ)は内服剤でありながら生物学的製剤に勝るとも劣らぬ効力を持つ一方、帯状疱疹等の感染症が多いとされています。
ゼルヤンツは、JaKを介してインターロイキン6のシグナル伝達を阻害する他、抗TNF剤のようにTNF-αを抑制したり、アバタセプト(オレンシア)のようにT細胞の活性化を抑制する効果など、現在の生物学的製剤を併せ持つような働きをするようです。
先日の米国リウマチ学会(ACR2013)では、ゼルヤンツで悪性腫瘍が有意に増加することはないとの報告がありましたが、少数とはいえ稀な腫瘍が起こった例もあり、投与前のスクリーニングをしっかり行い、慎重に経過をみることが望ましいようです。講演終了後も山岡先生には、いろいろと質問に丁寧に答えていただき、有意義な時間となり、深謝致します。
一般演題の部門では、私も「エタネルセプト(エンブレル)減量下にて長期寛解を維持している関節リウマチ(RA)症例の検討」とのタイトルで発表させていただきました。生物学的製剤を使用し、低疾患活動性もしくは寛解に至ることは多くなったものの、投薬をやめてしまうと1-2年後にはその多くでは再燃してしまうことがわかっています。一方、プリザーブ試験という有名な試験で、RAが低疾患活動性となった後にエンブレルを半量に減量した場合は、少なくとも1年はほぼその状態が維持できることがわかっています。今回の私の発表では、寛解後、さらにエンブレルの減量を重ね、5-6年間経過をみて、寛解(臨床的、画像的、機能的)を維持できている例の報告をさせていただきました。生物学的製剤の大きな問題は費用ですので、できるだけ少ない投薬量で寛解を維持できれば、大きな福音となるでしょう。ただし、減量途中で再燃される方も多いので、しっかりとした経過観察と評価が必要となります。多くの質問もいただき、御質問いただいた先生方、また御参加いただいた先生方やコメディカルの方々にも御礼申し上げます。